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JACP医薬品情報室-65

JACP医薬品情報室
65
著者
蔵之介
● 医薬品情報室-65

新型コロナウイルス感染症の発症抑制に限定された中和抗体薬
2022.09.17

 2022年8月、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の中和抗体薬、エバシェルド筋注セット〔一般名:チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え)〕が特例承認されました。免疫機能低下の人のウイルス曝露前の予防(発症抑制)に使用できる薬としては、国内初となります。

 中和抗体薬には、ロナプリーブ点滴静注〔一般名:カシリビマブ(遺伝子組換え)/イムデビマブ(遺伝子組換え)〕とゼビュディ点滴静注液〔ソトロビマブ(遺伝子組換え)〕があります。エバシェルドは、治療と予防(発症抑制)の両方に適応があります。治療は、重症化リスク因子を有する軽症から中等症Ⅰの患者が対象ですが、まだ供給体制が十分でないとの理由で、「当面は、厚労省が所有し、ウイルス曝露前の投与(発症抑制目的)に限り、薬剤を配分・供給する」との事務連絡が、2022年9月1日付けで発出されました。
 
 ロナプリーブにも、発症抑制の適応はありますが、ウイルス曝露後の濃厚接触者や無症状の患者が対象になります。エバシェルドは、ウイルス曝露前の「ワクチン接種が推奨されない者」や「免疫機能低下等により、ワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある者」が対象で、濃厚接触者への使用は認められていません。具体的には、免疫不全症や臓器移植後、免疫抑制薬や抗がん薬の投与により免疫機能が低下している人で、感染前に投与することで、発症を防ぐ効果が期待されています。なお、ワクチンは、「抗原」を注射して体内で「抗体」を作るものですが、抗体発現までに1~2週間の期間が必要になります。一方、中和抗体薬は、「抗体」そのものを投与するので、即効性があります。ただし、警告欄に「予防の基本はワクチン」とあるように、重症化予防(発症予防ではなく)に関しては、中和抗体薬よりもワクチンの方が高いと考えられています。

 既存の中和抗体薬は、オミクロン株(B.1.1.529/BA.2、BA.4、BA.5系統)に対しては有効性が減弱するおそれがあります。新型コロナの回復患者由来の2種類の抗体より開発されたエバシェルドは、ウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に結合することで、中和(感染阻止)作用を示し、ウイルスの宿主細胞への侵入を阻害します。1回の注射で発症リスクを76.73%低減し、オミクロン株(B.1.1.529/BA.4、BA.5では減弱)にも効果があります。消失半減期を延長するために、Fc領域にアミノ酸置換を導入した長時間作用型モノクローナル抗体で、その効果は、半年ほど継続するとされています。

医薬品情報局PDF-064