メルマガ新着

JACP医薬品情報室-69

JACP医薬品情報室
69
著者
蔵之助
● 医薬品情報室-69

アトピー性皮膚炎の痒みに特化した抗体医薬(ミチーガ皮下注用)
2023.1.15

 2022 年 8 月、アトピー性皮膚炎(AD:アトピック・デルマタイティス)治療薬のミチーガ皮下注用〔一般名:ネモリズマブ(遺伝子組換え)〕が発売されました。2018年に発売されたデュピクセント皮下注〔一般名:デュピルマブ(遺伝子組換え)〕に、次いで2剤目の生物学的製剤(抗体医薬)です。
 ADは、増悪と軽快を繰り返す痛痒のある湿疹を主病変とする慢性炎症性皮膚疾患。そう痒による掻破行動は、皮膚バリア機能の低下、皮膚症状の悪化、搔痒の増強などという悪循環(イッチ・スクラッチサイクル)を惹起します。ステロイドやプロトピック軟膏(一般名:タクロリムス)による外用療法とスキンケア(保湿薬)が基本になりますが、効果不十分な難治例も少なくありません。
AD治療薬は、10年ぶりの新薬として登場したデュピクセントを皮切りに、注射2剤、経口1剤(サイバインコ錠)、適応拡大2剤(オルミエント錠、リンヴォック錠)、外用2剤(コレクチム軟膏、モイゼルト軟膏)と、5年間に7剤が承認されました。新薬のほとんどはTh2細胞による炎症を抑える薬で、この背景には病態解明の進展があります。免疫細胞であるヘルパーT細胞のうちTh2細胞が活性化すると、アレルギー疾患に関与するIL(インターロイキン)-4及び13【皮膚バリア機能の低下/炎症に関与】、IL-31【痒みの誘発】、IL-5【好酸球の動員】などのサイトカインが産生され、受容体に結合すると、シグナル伝達に関与するヤヌスキナーゼ(JAK)やSTAT(シグナル伝達兼転写活性化因子)を経由し過剰な炎症を引き起こします。近年のバイオテクノロジーの進歩により、IL-4/IL-13を標的とするデュピクセントやJAK/STAT(ジャック-スタット)経路を阻害するJAK(ジャック)阻害薬などが創薬されました。ADの掻痒は、蕁麻疹とは異なり、抗ヒスタミン薬では軽減しません。ミチーガは、「痒み」を誘発するIL-31に着目し、神経細胞などに発現するIL-31受容体Aを標的としたヒト化モノクローナル抗体です。IL-31を阻害することで、痒みと掻破の悪循環を断ち切ります。既存治療を実施しても中等症以上の搔痒がある患者に、抗炎症外用薬や保湿薬と併用して使います。そう痒に特化した薬なので、症状が改善しても、既存治療は続けます。薬効を減弱する中和抗体は、まだ検出されていません。ヒト化抗体のため発現しにくいと考えられます。

 

 

医薬品情報局PDF-69