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JACP医薬品情報室-84(2025/7/1)

医薬品情報室
84
著者
蔵之介

● 医薬品情報室-84
週1回投与の基礎インスリン製剤(アウィクリ注)
2025.7.1

 2025年1月、週1回持効型溶解インスリンアナログ注射液、アウィクリ注〔一般名:インスリン イコデク(遺伝子組換え)〕が発売されました。世界初となる週1回投与の基礎インスリン製剤で、自己注射が困難な高齢者も介護者のサポートにより血糖管理が可能になると期待されています。
 インスリン分泌には、常に少しずつ分泌される「基礎分泌」(べーサル)と食後の急激な血糖上昇に応じて大量分泌される「追加分泌」(ボーラス)があります。グルカゴン、アドレナリン、コルチゾールなどのホルモンには血糖上昇作用があり、基礎分泌により血糖値が一定に保たれています。基礎分泌を補うインスリンアナログ製剤には、インスリン グラルギン(ランタス、ランタスXR、BS)、インスリン デテミル(レベミル)、インスリン デグルデク(トレシーバ)があります。インスリンは6量体では血管内に入れませんが、2量体から単量体に解離して移行します。血中でアルブミと結合していないインスリンが受容体に結合して作用します。作用時間の持続化には、等電点を改変して溶解性を下げる方法と側鎖を修飾して複合体を形成させる方法があります。ランタスは、等電点を体内と同じpH7.4に調整しました。シリンジ内(pH4)では溶解、皮下注で等電点沈殿を起こし、その後、徐々に溶け出します。ランタスXRは、濃度を3倍にして、沈殿物の表面積を小さく、溶解スピードをより緩徐にしました。レベミルとトレシーバは、側鎖に脂肪酸を付加し、レベミルは6量体が2個結合したダイヘキサマー、トレシーバは鎖状に連なったマルチヘキサマーを形成します。アウィクリは6量体(ヘキサマー)から単量体(モノマー)になり、アルブミンと結合し不活性な貯蔵体(デポー)となります。また、側鎖を修飾し受容体との結合親和性を弱めました。緩徐かつ持続的に解離することで、半減期が約7日間(196時間)となり、週1投与を可能にしました。連日投与の基礎インスリン(100単位)の7日分を1度に投与するため、濃度を7倍(700単位)にして液量を同程度にしました。定常状態になるまで3~4回の投与を要するため、初回は【連日投与の7倍量】のさらに【1.5倍量】を投与し、2回目以降は【連日投与の7倍量】に戻します(1.5倍量でないことに注意!)。初回投与の2~4日後に、低血糖が多く発現します()。他の基礎インスリン製剤に比べて低血糖の頻度が高く、週1回投与なので遷延する懸念もあります。自動車の運転などには、十分な注意が必要です。糖尿病・老年医学会は『高齢者における週1回持効型溶解インスリン製剤使用についてのRecommendation』を発出し、高齢者は低血糖の症状が乏しく重症低血糖を来しやすいので、初回の1.5倍投与を行わないことも考慮するなどの留意点を示しました。

 

医薬品情報局PDF-84