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ドイツ薬局便り-42

ドイツ薬局便り
42
著者
アッセンハイマー慶子

大学入学資格試験 アビトゥーア

2022/06/16

ドイツの教育機関は、ほとんどが公立であり、その場合、小学校から大学・大学院まで学費が要りません。公認の私立学校もありますが、多くはありません。小学校(Grundschule、グルントシューレ)は4年生までで、そこから進路が基幹学校(Hauptschule、ハウプトシューレ)、実業学校(Realschule、レアールシューレ)、ギムナジウム(Gymnasium)の3つに分かれます。教育に関する細かい規定は州の管轄であり、州によっては総合学校といって、5年生から義務教育の終わる9年生か10年生まで勉強できる学校制度を取り入れているところもあります。小学校から上級学校への進学には、通常、入学試験はなく、小学校の成績表の平均点が選抜基準になります。成績は6段階評価で、1が一番良い評価となります。6が1つでも成績表につくと小学生でも落第、留年になります。大学進学を考えるならギムナジウムに進まないとアビトゥーアという大学入学資格試験を受けることができません。毎年3~5月はアビトゥーア実施期間で、受験生を持つ親御さんたちは、健康管理や集中して勉強できる環境づくりに気を使います。

大学進学にも入学試験はなく、ギムナジウム最後2学年の成績とアビトゥーアという大学入学資格試験の成績を総合評価します。中央出願センターがあって、そこへ成績表を添えて希望の大学と学科を申請すると、後に入学可・不可かの通知が来ます。このアビトゥーア、筆記試験は科目ごとに4時間もかける耐久試験です。必須科目や選択科目の試験のある日、学生は、お弁当、飲み物、お気に入りのおやつ、お守りなどをカバンに詰め、家族の声援を玄関で受けて出かけていきます。試験時間内には随時、自分の席で飲食をしてよいことになっています。ドイツ語、数学、外国語は必須科目。他に2科目を選択します。実施される試験科目が沢山あるので、全ての試験が済むまでに何日もかかります。採点する先生方も大変です。

アビトゥーアは、来年も受け直しのきかない1発勝負の試験です。この成績が将来を大きく左右します。病気やケガなど、やむを得ない場合は後日、追試験を受けることができます。人道的な対処です。次女のクラスの1人はアビトゥーアの前に、お姉さんがコロナ陽性となり、本人は濃厚接触者扱いで、試験のいくつかを受けられなくなりました。次女から話を聞いて、立派だと思ったのは、その学生は落ち込むことなく、2週間の隔離期間が終わるまで自宅で有効に時間を過ごし、その様子をネットに掲載していたことです。男子学生ですが、ケーキを焼くのが大好きだそうで、自作のケーキを毎日、写真投稿していました。彼の叔母さんが当薬局の顧客で、親戚家族が必要な食料、医薬品や衛生用品を購入して、定期的に届けていらっしゃいました。「甥子さんの態度、立派ですね」と言ったら、嬉しそうでした。

無事アビトゥーアが終わり、採点が済むと各学校では成績表授与式が行われます。日本の卒業式にあたります。その後、アビ・バル(アビトゥーア舞踏会)と呼ばれるお祝いパーティーが開かれます。コロナ禍で2020年の卒業生は、残念ながらアビ・バルを開くことができませんでした。次女は去年の卒業生でしたが、お天気に恵まれ、屋外ならよいとのことで、校庭内でパーティーができることとなりました。受験勉強で大変な中、毎年、生徒達は教員と協力してアビ・バルの催し物を企画します。私には2人子供がいるので、アビ・バルを2回見てきたのですが、楽しい・面白い催し物が沢山でした。

男子生徒はスーツ姿、中にはタキシードや燕尾服をお祝いに新調してもらった子もいるそうです。女子生徒の多くはロングドレス姿です。髪を特別に夜会用に結い、ハイヒールを履いてドレスの裾を軽く持ち上げて階段を上る姿は、立派な淑女です。まるで外国の映画祭・授賞式を見ているような気分になります。我が家へ遊びに来たり、プロジェクトチーム内で一緒に勉強・作業をしたりで、顔見知りの子たちは、日頃は全く飾りっけがなく、清潔だけど「よれっ」としたTシャツにジーンズ姿なので見違えてしまいます。みんなピッカピカに輝いています。参加した家族も、この大変おめでたい日には、おしゃれをしています。ガールフレンドやボーイフレンドは、もちろん正装して同伴者としてパーティーに参加しています。次女のクラスの子に「卒業おめでとう。でも、誰かと思ったわ。スーツがバッチリ似合ってカッコイイ!」と言ったら、「おばさんのお洋服も素敵ですよ」と、いつの間にか、お世辞も1人前です。

ドイツでは18歳で成人です。運転免許は17歳で取得でき、18歳からは保護者同乗なしで運転できます。学年末が近くなるにつれ、車で学校へ通う学生の数が増えます。ギムナジウムを卒業すれば、若くても大人の1人として扱われます。ドイツの学校は、進学や就職のお世話をほとんどしてくれないので、先のことは自分で決めなくてはいけません。卒業後、大学へすぐ入学する者もいれば、バックパッカーとして世界旅行をしたり(今はコロナ禍で難しいのですが)、ボランティア活動を国内外でしたり、国の青年研修プロジェクトに参加し、大学の研究室や官庁などで実習をしたりした後に大学へ進む者もいます。こうしたボランティア活動や研修をして1年を過ごすと、アビトゥーアの持ち点が上がります。希望学部に入るのに必要な成績に近づけたり、より有利に志願できたりするユニークな仕組みです。大学へ入ると学期休みは長くても、必須の実務実習やアルバイト、来学期の準備などで、なかなか長期で自由に遊べません。大学に入るまでに思いっきり羽を伸ばしておきたいと、ギムナジウム卒業後1~2年は、大学入学を待つ者もいます。

ドイツ国内では22大学が薬学部を設置しています。人気のある学部です。薬学部入学に必要な成績は、年度や大学により多少違いますが、少なくとも1.5~1.9以上と言われています。ドイツ薬剤師連盟、ABDA (日本薬剤師会にあたる組織です)の統計によると、ここ数年は、毎年、約2800名が薬学部に入学し、薬剤師国家試験合格者は、毎年、約2200~2300名となっています。