国産初の軽症・中等症の新型コロナウイルス感染症の経口薬
2022.12.15
2022年11月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する国産初の経口抗ウイルス薬、ゾコーバ錠(一般名:エンシトレルビル フマル酸)が緊急承認されました。軽症・中等症の経口薬としては、特例承認されたラゲブリオカプセル(一般名:モルヌピラビル)、パキロビッドパック(一般名:ニルマトルビル/リトナビル)に次いで3剤目となります。
既存の2剤は、重症化リスク因子を有する患者に限定されていますが、ゾコーバは、重症化リスク因子のない患者に投与可能な初の経口薬になります。緊急承認制度の適用で申請されましたが、抗ウイルス効果は認められたものの、発熱や倦怠感など12症状の主要評価項目の有効性に関するデータが不十分として、継続審議になった経緯があります。今回、オミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水/鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさ/発熱、けん怠感・疲労感)の速報データで、快復までの期間が1日短縮されました。被験者は、オミクロン株感染が主で、ワクチン接種率も高く、国内の発熱外来の受診者のバックグラウンドを反映しているものと思われます。緊急承認と特例承認は、外国での販売実績の有無や「有効性の推定」などが異なります。
細胞内に侵入したウイルスは、①RNA(リボ核酸)を放出し、②RNA依存性RNAポリメラーゼでRNAを複製、②宿主のリボソーム(複製装置)を使い、RNAから長い蛋白質を合成、➂蛋白質分解酵素(3CLプロテアーゼ)で切り出し、ウイルスを大量に複製します。ゾコーバの作用機序は、パキロビッドと同じく、ウイルスの増殖に必要な3CLプロテアーゼを阻害します。ゾコーバはCYP3Aの基質であり、強いCYP3A阻害作用があります。CYP3Aで代謝される併用薬の血中濃度が上昇し、強力なCYP3A誘導薬との併用で、ゾコーバの作用が減弱する可能性があります。動物実験で、ウサギの胎児に催奇形性が認められたため、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与できません。また、服用中及び最終服用後2週間は授乳を避けることが求めらています。『コロナ薬物治療の考え方第15版』では、「一般に、重症化リスク因子のない軽症例の多くは自然に改善すること、対症療法で経過を見ることができることなどから、症状を考慮した上で投与を判断すべき」とされます。具体的には、高熱・強い咳症状・強い咽頭痛等の症状がある者などです。なお、重症化リスク因子のある軽症例に対して、重症化抑制効果を裏付けるデータは得られていません。