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JACP医薬品情報室-70

JACP医薬品情報室
70
著者
蔵之助
● 医薬品情報室-70

アトピー性皮膚炎の第4の外用薬(PDE4阻害薬)
2023.02.15

 2022 年 6 月、アトピー性皮膚炎の新たな外用薬として、モイゼルト軟膏(一般名:ジファミラスト)が発売されました。PDE(ホスホジエステラーゼ)4阻害薬は、経口薬として乾癬治療薬のオテズラ錠(一般名:アプレミラスト)がありますが、外用薬としては国内初となります。
 アトピー性皮膚炎(AD:アトピック・デルマタイティス)は外用薬による治療が基本で、治療目標として炎症や掻痒を速やかに鎮静する「寛解導入」と、症状が安定している状態を保つ「寛解維持」があります。強力な抗炎症作用があるステロイド外用薬は、寛解導入の第一選択薬になります。長期連用により、顔の赤み(毛細血管拡張)や皮膚が薄くなる(皮膚萎縮)などの副作用があり、顔面等にはミディアム(Ⅳ群)以下が推奨されます。免疫抑制薬のプロトピック軟膏(一般名:タクロリムス)は分子量が比較的大きく、正常な皮膚からは吸収され難いという利点があります。ステロイドのような切れ味はありませんが、経皮吸収の良い顔面や頚部の難治な皮膚炎には有用です。皮膚の厚い体幹や四肢では効力が落ちます。炎症の急性期に使用すると高頻度に灼熱感等が発現し、びらんや潰瘍面には使用できません。2020年に発売されたヤヌスキナーゼ(JAK:通称ジャック)阻害薬のコレクチム軟膏(一般名:デルゴシチニブ)は、低分子薬で吸収も良好です。安全性が高く、皮膚刺激感はほとんどありません。アトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏と並び、標準治療の1つに位置付けられています。
 第4の外用薬として登場したモイゼルト軟膏は、低分子薬で透過性にも優れ、副作用の少ない薬です。プロトピックやコレクチムと違い、使用量に上限がありません。PDE4は顆粒球、リンパ球、マクロファージなどの免疫細胞に存在し、炎症性サイトカインを調節しています。細胞内セカンドメッセンジャーであるcAMP濃度が低下すると、炎症性サイトカインが増加し、抗炎症性サイトカインは減少して、炎症などの過度な生体反応を引き起こします。ADでは、cAMP濃度が低下し、炎症性サイトカインが過剰となっています。作用機序は、cAMPを分解するPDE4を選択的に阻害することで、cAMPの濃度を増加させて、アトピー性皮膚炎の炎症を抑えます。ガイドラインによる評価はこれからですが、ステロイドからの切替薬として、寛解維持期に有用な選択肢になると期待されます。免疫細胞に作用するため、毛包炎やざ瘡などの皮膚感染症には注意をします。

PDE4阻害薬(モイゼルト軟膏)の作用機序

 

 

医薬品情報局PDF-69