● 医薬品情報室-83
不眠症治療薬(クービビック錠)
2025.6.1
2024年12月、不眠症治療薬クービビック錠(一般名:ダリドレキサント塩酸塩)が発売されました。ベルソムラ錠(一般名:スボレキサント)、デエビゴ錠(一般名:レンボレキサント)に続く3剤目のオレキシン受容体拮抗薬です。
不眠症は、『入眠または睡眠の維持が困難であることを特徴とし、日中の活動の重要な部分において臨床的に明確な苦痛や機能不全を引き起こす』と定義されます。入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒などの症状〔不眠〕に、倦怠感や集中力低下などの「日中の機能障害」が加わると疾患〔不眠症〕になります。
不眠症治療薬の変遷は、依存性が強いバルビツール酸塩から認容性の高いベンゾジアゼピン系薬に、長時間型ベンゾジアゼピン系から超・短時間型のハルシオン錠(一般名:トリアゾラム)やレンドルミン錠(一般名:ブロチゾラム)に、さらに非ベンゾジアゼピン系のマイスリー錠(一般名:ゾルピデム酒石酸塩)やルネスタ錠(一般名:エスゾピクロン)など、ω2選択性が高く筋弛緩作用や抗不安作用の少ないのZ薬に、近年は、既存薬とは作用機序が異なる、鎮静作用や筋弛緩作用、離脱症状のないメラトニン受容体作動薬のロゼレム錠(一般名:ラメルテオン)やオレキシン受容体拮抗薬が主流になりつつあります。
1998年に櫻井武、柳沢正史らにより発見されたオレキシンは、覚醒状態を維持する神経ペプチド。視床下部で産生され、不眠症の原因となる脳の過覚醒やナルコレプシーとの関連が明らかになりました。オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒に関わるオレキシンの働きを妨げて、睡眠を導入します。オレキシン受容体には、OX1RとOX2Rの2種類のサブタイプがあり、両方を抑制するのでデュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA:dual orexin receptor antagonist)と呼ばれています。OX1R よりOX2Rのほうが重要な役割という基礎研究もありますが、生理的には両方の受容体が睡眠・覚醒の制御に関与しているようです。
入眠効果は、デエビゴ錠とクービビック錠が同等で、せん妄の予防効果が期待されるベルソムラ錠はやや弱いという臨床医の使用感もあります。安全性に関しては、ベンゾジアゼピンのように鎮静作用や依存性の形成はありません。ただし、翌日も続く眠気などの持ち越し効果(ハングオーバー)が懸念されます。ベンゾジアゼピン系薬と同様に血中濃度に強く相関するのであれば、半減期の短いクービビック錠(半減期:約7時間)の方が半減期の長いデエビゴ錠(約50時間)やベルソムラ錠(約12時間)より有利かと思われます。食事によりTmaxが約2倍に延長するので、食事と同時または食直後の服用は避けます。また、重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)の患者には投与禁忌となります。