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ドイツ薬局便り-47(2024/04/30)

ドイツ薬局便り
47
著者
アッセンハイマー慶子

医薬品の管理システム
2024/04/30

ドイツは通常、箱だし処方・調剤を行っています。例外が、代替治療を受けている麻薬中毒患者への医薬品譲渡で、箱を開封し医師が処方した量だけ計数調剤します。
医薬品の外箱には、製品名や成分名の他に、在庫管理、受注・発注、保険請求に重要でかかせない情報が印刷されています。また、要処方箋医薬品には、偽造防止に役立つデータマトリックスコードがついています。
今回は、これらについて詳しくお話いたします。

要処方箋医薬品の外箱(例)

医薬品の外箱に印刷されるべき情報は、ドイツ薬事法(Arzneimittelgesetz、略は AMG)の10条に詳しく定められています。点字表示も義務付けられています。

製品の同定番号PZN(Pharmazentralnummer)
医薬品だけでなく薬局で扱える全ての製品には、PZN(Pharmazentralnummer)という製品同定番号がついています。同じ製品名でも、箱のサイズや剤形などが異なれば、その品目1つ1つにPZNが与えられます。PZNとそのバーコードは、上の例のように双方並んで外箱に印刷されています。このバーコードをレジでスキャンすれば、製品名やその価格が画面に出ます。メーカー・卸・薬局間の受注・発注や問い合わせには、このPZNを利用します。医院や患者さんから電話注文を受けるときも、PZNがわかっているかどうか聞き、受注ミスがないようにします。同じ製品名でも、箱のサイズ、剤形、単位あたりの成分含有量が違う場合があるからです。箱だし調剤ですので、適応症や投与期間に合わせられるよう、メーカーは通常、同じ製品でも3つのサイズを揃えています。PZNは1品目ごとにつけられた全国共通同定番号ですので、これがあれば、正確な処方箋業務が行えます。同じ製品でも卸間で製品番号が違ったり、この同定番号システムを使用しなかったりするメーカーやレセコンがあれば、現場の作業がスムーズにいかず混乱しますが、医薬品を扱う全ての機関がこの番号を採用しているのでとても便利です。

偽造医薬品流通防止システムSecurPharm
SecurPharmとはEU内で導入された偽造医薬品流通防止システムです。ドイツでは2019年2月9日からスタートしました。要処方箋医薬品の外箱1つ1つには、その箱固有の同定番号がデータマトリックスコードに組み込まれて記されています。このコードには、その箱の同定番号の他、ロット番号、使用期限情報も盛り込まれています。偽造か否かだけでなく、製品在庫管理にも利用できる情報です。メーカーは、製品を卸や薬局へ出荷するまでに、このデータマトリックスコードをEUとドイツの管理サーバーに送ります。

卸は入荷の際にドイツ管理サーバーに繋がった自社内のコンピューターでコードを読み取り、本当にメーカーからものかチェックします。同時に使用期限を自社内コンピューターに読み込みます。薬局への出荷の際にはこのコードをスキャンして配送します。この製品が、どこの薬局へいつ配送されたか記録されます。

薬局のレセコンも上記のドイツ管理サーバーに繋がっています。入荷、譲渡の際にスキャンして、偽造品でないか確認します。入荷チェックの際にこのデータマトリックスコードをスキャンし忘れると、コンピューターから警告が出て、ブッキングできないようになっています。販売するときも、スキャンし忘れるとレセコンから警告がでます。同じ箱を後に、SecurPharmのプログラムでスキャンすると、いつ入荷していつ譲渡したか記録を見ることができます。

悪気はなく、うっかり古い箱をもっていらしたとは思うのですが、先日配達された薬の期限が短すぎると苦情を言いに来た患者さんがいました。箱のデータマトリックスをスキャンすると、当薬局から出したものではないようです、あらら。丁重にその旨伝えると、気まずそうにお詫びを言って帰って行かれました。

ピッキングマシーンを導入している薬局では、マシーンに品物を入れる際に、データマトリックスコードをスキャンします。同定番号だけでなく、有効期限も読み取ってくれるので、OTC製品などのように手入力で有効期限を入力する必要がなく作業時間の短縮になります。同じ製品が複数マシーン内にあっても、箱の位置とその同定番号を記憶してるので、ピッキングした時点でどの同定番号を持った箱をどの処方箋業務過程で患者さんにお渡ししたかがコンピューターに記録されます。要冷蔵医薬品や大きな箱など、ピッキングマシーン以外から取り出してお渡しする際には、その箱のデータマトリックスを手作業でスタッフがスキャンします。

このようにして、要処方箋医薬品は、患者さんに手渡るまで、何度かそのデータマトリックスをスキャンされ、偽造品でないことが確認されます。患者さんに手渡った後、メーカーは一定期間、同じ同定番号を再度利用することはできません。ですから、空き箱を利用して、中に偽造品を詰めて販売することは不可能です。箱を精巧に偽造しても、その番号は管理サーバーには登録されていないものなので、どこかで偽造品だとわかってしまいます。